社内流動性を高めるには?組織を活性化させる人事戦略のポイント
優秀な人材が「社内で活かされていない」と感じていませんか?
組織内の人材配置が固定化し、新しい挑戦がしづらくなると、モチベーションの低下や離職のリスクが高まります。いま求められているのは「採用する力」ではなく、「今いる人材を活かす力」です。
本記事では、転職エージェントの視点も交えながら、社内流動性を高めて組織を活性化するための人事戦略をわかりやすく解説します。現場から経営層まで、すぐに実践できるヒントが満載です。
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社内流動性がいま求められる理由
日本企業において、長年「人材の定着率の高さ」は安定した組織運営の象徴とされてきました。
しかしながら、働き方の多様化や終身雇用の形骸化が進む今、優秀な人材がただその場にとどまっているだけでは、企業の競争力維持は難しくなってきています。
特にここ数年、人的資本経営の重要性が叫ばれるようになり、社内での人材の動きが注目を集めています。
流動性という言葉がしばしばネガティブに捉えられる一方で、社内における人材の流動性、すなわち「異動・配置換え」「兼務」「社内公募」などの仕組みは、組織全体の活性化に直結する重要な要素です。
私自身、転職エージェントとして多くの企業と求職者を見てきた中で「今の部署ではもう成長が望めない」「挑戦したいことはあるけれど、異動希望を出しにくい雰囲気がある」という声を聞く機会が少なくありませんでした。
そのような理由から、転職(退職)する人材も多く見てきました。彼らの多くは、社内に別の選択肢があれば、その企業に残ることを希望していたのです。企業としては優秀な人材を外に流出させてしまう損失になります。
また、社内の人材が硬直化している場合、新しい価値観や視点が組織に入り込む余地が少なくなり、結果として保守的で変化に弱い体質になってしまうリスクもあります。
こうした背景から、社内流動性の確保は、経営課題としても避けて通れないテーマになりつつあるのです。
社内流動性がもたらすメリット
組織の活性化・イノベーションの促進
社内流動性が高まることで、部署を超えた知見の共有や新しい価値観の流入が起こりやすくなります。
異なるバックグラウンドを持つ社員が交わることで、化学反応のように新たなアイデアや視点が生まれ、イノベーションのきっかけとなるのです。
特定の業務に閉じ込められた人材が新たな現場に入ることで、既存の課題を別の視点で捉え直すことが可能になります。
人材のスキルの多様化・成長支援
一つの部署だけでなく複数の領域を経験することで、社員のスキルは広がり、総合的な視点を持った人材に育っていきます。
たとえば営業と企画、現場と管理部門など異なる立場を経験することで、社内の共通言語が増え、組織内コミュニケーションも円滑になります。こうした経験は、リーダーシップやマネジメントにも直結する大きな財産です。
離職率の低下/定着率の向上
「今の職場ではやりたいことができないから転職したい」という相談は、転職エージェントとして数えきれないほど受けてきました。
実際、転職を決断した人の中には、社内に別の道があれば留まった人も多くいます。社内に多様なキャリアの可能性があることは、社員にとって心理的な安心材料となり、離職防止にも効果を発揮します。
経営層から見たリーダー人材の発掘にも有効
流動性のある組織では、異動の中で埋もれていた人材が発見されることもあります。
若手や中堅社員にとっては、違う環境での挑戦が思わぬ才能を開花させることがあります。経営層としては、次世代リーダーを見極めるためにも、社員の多面的な能力を観察できる場面が増えることは大きなメリットです。
社内流動性を阻む3つの壁
上司による「囲い込み」文化
よくあるのが、上司が優秀な部下を手放したがらないケースです。
「今抜けられたら困る」「評価が下がる」などの理由から、社員の異動希望が表に出せない空気が生まれてしまいます。こうした囲い込みは、組織全体の最適化を妨げ、結果的には人材の流出にもつながりかねません。
キャリアパスの不透明さ
「仕事内容がよくわからない」「異動しても将来的にどうなるのかが見えない」という不安を抱える社員は少なくありません。
特に現場で活躍している社員にとっては、今のポジションを離れることがリスクと感じられ、チャレンジを避けるようになります。評価制度とキャリア支援の両輪がなければ、社内流動性は機能しづらくなります。
社内公募や異動制度の形骸化
社内公募制度(社内転職制度)はあるものの、実際にはほとんど活用されていない課題です。
「応募ハードルが高すぎる」「過去に誰も受かっていないから無駄」といった声が聞こえてくる場合、制度の存在自体が社員の不信感につながってしまいます。
「制度がある」ことと「制度が機能している」ことは全く別物です。人事としては、制度を設けた後こそが本当のスタート。運用実績を丁寧に可視化し、社員の成功体験を積極的に社内に発信することで「この制度は使いたい」という信頼が醸成されていきます。
社内流動性を高めるための人事戦略のポイント
組織横断で人材を見える化する(タレントマネジメントの活用)
まず取り組みたいのが、スキルや志向性を組織全体で共有する「見える化」です。
タレントマネジメントシステムを導入することで、社員一人ひとりの強みや希望を正確に把握し、適切なタイミングでの異動や抜擢が可能になります。現場に埋もれている人材の可視化こそが、流動性向上の出発点です。
社内公募・社内FA制度など「社員が動ける仕組み」を整える
社員が主体的に手を挙げられる制度は、社内に「動いてもいいんだ」という安心感をもたらします。
ただし制度は“実際に通る仕組み”でなければ形骸化してしまいます。応募から選考、配属までのプロセスにおいて透明性を確保し、社員が納得感を持てる設計が求められます。
上司評価だけに依存しない異動・登用のルールづくり
異動や昇格の判断が一部の上司の裁量に委ねられていると、どうしても主観が入ってしまいます。
人事部門や経営層が複数の視点で判断する体制を整えることで、公平性と納得感を両立させることができます。また、制度における「見えない壁」を取り除く意味でも、客観性を担保した設計が不可欠です。
キャリア自律を促す研修・1on1・キャリア面談の導入
社員が自身のキャリアについて考える機会を意図的に設けることは、流動性を生む大きなきっかけになります。
定期的なキャリア面談や1on1を通じて「今後どんな仕事をしていきたいか」を言語化する機会を提供しましょう。人事部門としても、社員の志向性をつかむ貴重な情報源になります。
当社は社内公募制度活性化サービスとして、キャリアコーチを派遣し、1on1トレーニングを実施しています。社内異動制度の応募予定者に対して、応募理由の言語化や自己アピール作成のサポートをおこなっており、好評を得ています。興味がある企業様はお問い合わせページからご連絡ください。
短期的損得ではなく「社内全体最適」を評価軸にする
目先の成果や人手不足を理由に異動を拒むのではなく、会社全体で最適な人材配置を考える文化が必要です。
部門単位の利害だけでなく、長期的な人材育成と全社最適を見据えた視点が、人事制度の根底にあるべきです。
社内流動性の企業事例
たとえばリクルートでは、社員が自ら異動を希望できる「キャリアウェブ制度」が浸透しており、若手社員でも希望すれば新規事業に挑戦できる環境があります。
また、サイバーエージェントでは「キャリチャレ(社内異動公募制度)」と「人材覚醒会議(配置転換)」が文化として根付き、多様な経験を通じてリーダー人材が育成されています。
どちらの企業にも共通するのは、制度だけでなく「挑戦を評価する文化」が根付いている点です。制度を作るだけでは機能しません。社員の挑戦を歓迎する空気があってこそ、流動性は本当の意味で組織の力になります。
社内流動性活性化で今すぐ取り組める施策
小規模な異動・社内兼務の試験導入
いきなり全社的な異動制度を導入するのではなく、まずは一部の部署やプロジェクトにおいて、小規模な異動や社内兼務の導入を試してみることが現実的かつ効果的です。
たとえば、営業部門からマーケティング部門への兼務を設定したり、企画部門から現場チームへの期間限定のローテーションを試みるといった具合に、小さな動きから流動性の種を撒くことで、社内全体への波及効果が期待できます。
このような小規模な試行は、社員側の心理的ハードルを下げるだけでなく、受け入れ側の部署にとってもリスクが少ないため、比較的スムーズに実施できます。
また、兼務によって“本業とのバランス”や“複数業務の両立”といった現実的な課題に気づけるため、制度設計の参考にもなります。
実際に、ある中堅企業では開発部門にいた若手社員が、半年間のマーケティング兼務を経て適性を発揮し、正式異動が決定。本人のモチベーションが飛躍的に向上しただけでなく、業務の橋渡し役として両部署の連携もスムーズになったという事例があります。
キャリア面談の仕組み化
社員一人ひとりのキャリア志向や希望を把握するためには、キャリア面談を制度としてしっかりと根付かせることが不可欠です。
単発の面談ではなく、年に1〜2回の定期的な実施をルール化し、人事や外部キャリアアドバイザーが関与する形で運用するのが理想です。
面談の内容は評価目的ではなく、あくまで社員のキャリア観や希望、現在の課題を把握する「対話の場」として位置づけることが、社員の本音を引き出すうえでも重要になります。
このようなキャリア面談は、人事にとって将来的な人材配置や抜擢の材料となるだけでなく、社員自身が自分のキャリアを内省するきっかけにもなります。
「これまでの経験をどう活かしたいか」「今後はどのようなスキルを磨きたいか」などを言語化するプロセスを支援することで、キャリア自律を促進し、社内流動性の自然な流れを生み出す土壌となります。
キャリア面談を制度化し、定期的に社員の希望やモチベーションを把握する場を作ることも大切です。人事・現場双方にとって、将来の配置や登用の判断材料になります。
社内コミュニティの立ち上げ支援
部署を越えた緩やかなつながりが、異動への心理的ハードルを下げます。勉強会や部活動、プロジェクト型の取り組みなど、社員同士が関わり合える場づくりも有効です。
特に、公式な異動制度に先立って自然発生的な横のつながりを増やすことは、異動や社内兼務のきっかけにもなりやすく、制度の円滑な運用にもつながります。
たとえば、社内でテーマ別の勉強会や社外イベントのレポート共有会などを定期的に実施することで、共通の興味や課題を持つ社員が集まりやすくなります。
また、オンラインチャットや社内SNSを活用して、職種や役職に関係なく気軽に意見交換できる空間を整えることも、コミュニティ活性化に寄与します。
社員の適性やキャリア軸に沿った社内異動の最適化支援サービスへのお問い合わせはこちら
まとめ
転職相談で思うのは「今の会社で新しいことができたらベストなんですが…」という声の多さです。社内でのキャリア選択肢が豊富であれば、社員のエンゲージメントも高まりやすくなります。
社内流動性の向上は、人材の最適配置や組織の活性化に直結するだけでなく、社員の離職防止やキャリア開発にも大きく貢献します。
今ある人材を最大限に活かし、企業全体のパフォーマンスを高めるためには「異動・兼務・公募」などの仕組みを形だけにせず、実際に機能する制度へと育てていくことが求められます。
小さな取り組みから始め、社内流動性を高める文化を一歩ずつ根付かせていきましょう。社内でのキャリア選択肢が豊富であれば、社員のエンゲージメントも高まりやすくなります。
頑張って採用した人材が辞める決心をする前に、社内の流れを見直すところから始めてみてはいかがでしょうか。
実際に、ある大手メーカーで働く営業職の方は全く成果が上がっていませんでしたが、社内異動で別事業部の営業に配置転換された結果、トップクラスの成績を残せるようになりました。
これは本人が「やりたい部署に配属できた」のが理由でした。これまでは希望して部署ではなく、全く興味が無くモチベーションも上がらなかったそうです。